老後のお金と聞くと、多くの人は年金や生活費を思い浮かべるでしょう。しかし英国では今、「介護費用」が退職後最大の経済的リスクとして注目されています。
消費者団体 Which? が2026年に行った調査によると、英国の退職者の55%が「将来、介護費用を支払えるか不安だ」と回答しました。この割合は2024年の46%から上昇しており、介護に対する経済的不安が年々強まっていることが分かります。
その理由は、介護費用の高さにあります。
現在、英国で介護施設に入居する場合、自己負担費用は平均で週1,300ポンド程度。年間では約67,000ポンド、日本円に換算すると1,300万円以上にもなります。さらに看護付き施設では週1,512ポンド、認知症ケアを含む施設では週1,585ポンドに達します。いったいどれだけの英国人が払えるのでしょう…。
介護施設での滞在期間は人によって大きく異なりますが、英国老年医学会によると平均在所期間は看護なし施設で約24か月、看護付き施設で約12か月とされています。仮に平均的な施設に2年間入居した場合、総費用は13万ポンドを超える計算になります。予想以上に長生きした場合は、家族に心配させてしまいそうです。
さらに厄介なのは、介護費用が近年急速に上昇していることです。調査会社Carterwoodによれば、自己負担者向け介護施設の料金は2024年から2025年にかけて平均8.5%上昇しました。介護職員の人件費上昇、エネルギー価格や食費の高騰、人材不足などが背景にあります。
もちろん、公的支援制度が存在しないわけではありません。でも英国では資産状況に応じて支援額が決まるため、一定額以上の資産を保有している人は原則として自ら介護費用を負担しなければなりません。イングランドでは資産が23,250ポンドを超える場合、多くのケースで自己負担となります。
その結果、「家を持ち、年金もあり、老後資金も十分に準備したはずなのに、介護費用で資産が大きく取り崩される」というケースも珍しくありません。
こうした状況を受け、英国政府は介護制度改革を検討しています。スコットランドで行われているような公的介護サービスの拡充や、介護費用の上限設定などが議論されていますが、実現時期や具体的な内容はまだ不透明です。過去には介護費用の自己負担を86,000ポンドで打ち切る案もありましたが、財政負担の大きさから撤回されました。
老後資金の準備というと、どうしても年金や投資運用に目が向きがちです。でも英国の現状を見ると、本当に考えるべきなのは「長生きした場合の介護費用」かもしれません。自分自身の分だけでなく、家族の介護費用も想定しておかないといけませんね。
リタイアメント後の生活設計を考える際には、毎月の生活費だけでなく、将来介護が必要になった場合に備えた資金計画も欠かせません。長寿化が進む時代だからこそ、「介護」は遠い将来の話ではなく、老後資産形成の重要なテーマの一つになりつつあるのです。私が介護が必要な年齢になるまでに一家に一台介護ロボットが貸し出される世の中になっていて欲しいです。

