先週、スナク首相が7月4日に総選挙を行うことを発表しました。いつも通り、現政権の保守党と政権奪還を狙う労働党の実質一騎打ちです。今のところ労働党が単独で過半数を占めることが予想されており、実現すれば14年ぶりの政権運営になります。今回の選挙戦の主な争点は、景気、NHS(国民健康サービス)、移民政策、格差是正などです。
1番の経済政策は、物価上昇で生活費に苦しむ国民をどう救うかです。一応直近データではインフレは収まりつつあることが確認され、現政権は自信を示していますし、経済政策に関しては保守党の方が歴史的に国民の信頼を得ているようです。ところが、2022年にトラス前首相が打ち出したひどい財政政策のせいで、保守党は悪評を挽回することが出来ていません。労働党はここぞとばかりにこの混乱を非難してきており、有権者の支持を獲得しています。これに対し保守党は、労働党の財政計画は資金源が明確ではなく、国家債務の増加と増税が必要になるだろうと懸念を示しています。一方で、保守党政権下でも国家債務は膨らみ続け、1960年代初頭以来の水準となっています。
2番目のNHSも病める国民の不安の種です。NHSは選挙のたびに、景気に次ぐ重要な問題とされてきました。治療の待機期間が過去最長になっていること、NHS施設全体のインフラの老朽化、労働力不足など課題は山積みで、イギリスの公的医療システムは崩壊寸前です。労働党は待ち時間を短縮し、手術件数を増やすことを公約していますが、NHSの問題の規模、システム全体と関連サービスの複雑さ、改善に必要な資金の規模は、どの政党が政権を握っても簡単に解決はしなさそうです。
NHSは英国の公共サービスの一つですが、他の公共サービスも似たり寄ったりの問題を抱えています。例えば地方自治体は、地域の環境を維持し教育、公共施設運営、老人ケアやゴミ処理など、日常生活に不可欠なサービスを提供します。現在一番重要視されているのは、開発による住宅供給です。一部の自治体の財政状況は危機的で、すでに破産してしまった自治体もあります。労働党が政権を握った場合、地方自治体への投資は引き続き制限される見込みです。
第3の論点は移民問題です。現政権のルワンダ法案(違法移民をルワンダに強制的に送る法案)は議論を呼びました。一方、労働党は海外から流入する労働者への依存を減らすことを検討しており、ポイント制の移民制度を提唱しています(余談ですが、私は前回の労働党政権時代にポイントを集めて移民しました)。労働党を率いるスターマー卿は、国境警備隊を新設して国境通過阻止にとりくむことを公約しています。2024年に小型ボートで英国に到着した移民の数はすでに約1万人で、保守党は選挙前にルワンダへのフライトを実行する必要がありそうです。
その他の争点としては環境問題がありますが、英国民にとって環境問題は優先度が低いようです。労働党も保守党も、環境問題には残念ながら及び腰です。英国民は強いリーダーシップを求めていますが、現首相のスナク氏は頼りないという印象を抱いている人が過半数です。一方、スターマー卿も不支持率が支持率を上回っています。党を率いて勝利するには、国民に信頼される分かりやすいカリスマ性が必要です。
選挙まであと1か月ちょっとです。私には選挙権がありませんが、選挙戦を興味深くフォローしています。