保守党が2019年の総選挙で掲げたマニフェストの1つに、賃貸人を守る改革があります。Renters reformという法案です。この案は長い間放置されてきたのですが、総選挙を1年半後に控えて慌てて整備しようとしているようです。
背景としては、英国の家賃が上昇し続けていることがあります。2023年4月時点で、ロンドンの平均家賃は月2,500ポンド(約43万円)と過去最高を記録しました。退居を言い渡されたら良い条件で物件を見つけられる保証が無いので、賃貸人たちは不安を抱えています。物件を購入したくても、住宅ローン金利も高く、家賃を払っていたら頭金も貯まりません。
現在、家主は理由を伝えることなく、テナントに退居を言い渡すことができます。そのため、テナントは大家に修理など要求しづらいということがあるようです。この法案が通れば大家は、テナントに非が無いかぎり退居させることができなくなります。一方、大家は、家賃を繰り返し滞納したり反社会的なテナントには、短い通知期間で退居させることができるようになります。
さらにこの改革法案では、賃貸人はペットを飼う法的権利を要求できるようになり、大家は特段理由が無い限り拒むことはできません。また、生活保護を受けている人や子どもがいる家族に賃貸することを拒否できなくなります。不動産の売却などの理由で退居してもらう場合は、2か月の通知期間が必要です。新法案成立後も、大家は年1回は家賃を引き上げることができます。
これらが法制化された場合、賃貸人の不安は一部解消されるでしょう。大家にとっては追加の制限で面倒なことが増えるのも事実です。そのため、不動産に残債があって賃貸に出している投資家大家には、ローン金利も高いし割に合わないので売却しようとする人も増えると思われます。そうなると、現在すでに不足している賃貸物件がさらに減り、賃貸人たちの熾烈な競争が激化することも懸念されます。
新法案は2023年中に成立する見込みです。