*この記事の内容は2023年5月9日時点のものです。
今週、英国の住宅公社が現在賃貸中の人を対象に頭金不要のフル住宅ローンの提供を始めたということがニュースになっていました。
今までも頭金不要の住宅ローン商品はほんの少しありましたが、家族や知人に保証人になってもらうという条件でした。今回登場したのは、過去12か月家賃の支払い遅延が無く信用履歴が良好であれば、保証人なしでフルローンが借りられるというものです。英国第4位の住宅公社Skiptonが提供するサービスです。当然ながら、通常の住宅ローンより金利は高く、5年固定で5.49%だそうです。他のローン提供会社の5年固定平均金利は5%程度です。
初めて不動産を買う人(売る物件が無い人)にとって、住宅価格は高すぎてなかなか手が出ません。以前にも書いたように、イギリスは住宅価格が上昇し続けることが期待されるため皆頑張って物件を購入するのです。でも昨今は、手が届く手ごろな価格の物件が不足しています。また家賃急上昇のために1軒目の頭金を貯めることができません。
それでも住宅を購入したい人のために英国政府はHelp to Buyという住宅購入支援制度を打ち出していたのですが、残念ながら2022年10月に新規申請が締め切られました。これは英国財務省が、初めて住宅(新築限定)を買う人のために5~20%、ロンドンでは最大40%まで融資を提供するという制度でした。将来また似たような制度ができるという噂はあります。
2008年のリーマンショックは、住宅価格に対して大きすぎるローン比率が原因の一つでした。金融機関が住宅購入者の信用力をろくに審査もせずに多額のローンを貸し付け、その後払いきれなくなった人が続出し、金融システムの崩壊につながりました。
イギリス中央銀行は、まだまだ利上げの手を緩めるつもりはありません。現在10%越えのインフレーションが2%に落ち着く可能性が見えてくるまであと数回は利上げを行うでしょう。変動金利の住宅ローンが払えなくなる人はますます増え、住宅を売却せざるを得ない人が続出すると思われます。現にたくさんの物件が市場に出ていますが、住宅ローンの金利が当面高止まりすることが予想されるので、買い手も躊躇しています。
少ない頭金で購入すると毎月のローン支払いに苦労するだけでなく、住宅価格下落により債務超過のリスクに直面します。5%の頭金の場合、住宅の価格が5%以上下落したら住宅の価値を超えるローン(つまり含み損)を抱えることになります。不動産投資家でも、ローンの支払いが受取家賃を超えるケースが起こっており、投資リターンが割りに合わないので他のもっとリターンが高い投資に乗り替えている人もいるようです。
貯金がないけれどどうしても今家を買いたい人には一筋の希望ではありますが、頭金なしのローンは、貸し手も借り手も相当に慎重になる必要があります。可能な限り頭金(多ければ多いほどベター)を貯めてから購入したほうがいいでしょう。