イギリス人の住宅事情は、小さい安いアパートを若いときに購入し、その価値が上がったら売ってもう少し大きいアパートを購入し、家族が増えたらまたそれを売って郊外の大きい家に引越し、子どもたちが巣立ったら大きい家を売って小さい平屋に住み替えて浮いたお金を老後資金にする、というパターンが一般的でした。
住宅価格自体は高金利にもかかわらず上昇をし続けています。ところが昨今は、上記の流れ(「不動産のはしご」と呼ばれます)について行かれるのは、ごく一部の裕福な家族だけだということです。住宅価格が上昇しすぎて、人生の中盤に家族用の大きい住宅に引越すことが出来なくなっているというのです。
i(新聞社)によると、所有する家を売って大きな家に住み替える人は、ここ20年で最低水準になっているそうです。20年前は「住み替え」る人が初回住宅購入者の2.4倍いたのですが、現在は0.9倍、つまり初回購入者の方が多くなっています。
不動産エージェントによると、この傾向は、イギリス政府がとにかく若い人たちを不動産のはしごに乗せようと、新規購入者だけに税金優遇などの恩恵があるような制度を作ったこと、と住宅価格の高騰により実家の経済援助が受けられる人だけが購入しているのが原因だそうです。
それ以外にも、人生最後の家のダウンサイジングをしないか遅らせる高齢者が増えてきて、大きい家に住み続けることから家族用の住宅の供給がひっ迫している現象も指摘されます。
イギリス人の購買力が人生で一番高いのは40代ですが、住宅価格の伸びが賃金の上昇率を上回っています。2003年時点の英国の平均住宅価格は130,000ポンドで、2023年には123%増加の290,000ポンドになりました。一方、賃金の方は2003年の平均週349ポンドが2023年の週682ポンドと95%しか伸びていません。当然ながら国民は以前より貧しく感じており、新しい政権に期待するのは新規以外の住宅購入者への支援といえるでしょう。