1年前にイギリスの半導体企業アームがロンドンではなくニューヨークで株式を上場したという記事を書きました。その時点で「あぁ、イギリス終わった…(涙)」と愕然としていましたが、英国企業ですらロンドンで上場しないという流れは止められず、ロンドン株式市場から撤退する企業が増えています。英国政府はそういう企業に土下座する勢いで思いとどまるよう説得していますが、企業のExodus(脱出)は残念ながら始まったばかりです。
みなさんご存じのように、イギリスと言えば金融サービスが一番の売りなわけですよ(というか、他にめぼしい産業が無い)。ロンドン証券取引所は悲しいことに、英国の衰退のシンボルとなってしまっています。財務省は当然ながら焦りを感じて、ハイテク企業を招集して会合を行うなどしています。
ロンドン株式市場は規模がどんどん小さくなり、今年に入ってから新たに上場したのは、カザフスタンの航空会社のみだそうです。財務省は有望な新興企業にロンドン証券取引所で資金調達してもらい、投資資金が英国に流入し国民に富をもたらすことを切に望んでいるのです。企業が上場すれば、その会社だけでなく、法律事務所、証券会社、機関および個人投資家などにお金が回ります。ただ、どこで上場するか決めるのはその企業であり、残念ながら政策的に打つ手はないようです。
ハント財務相が開催したハイテク企業サミットは、少なくとも1社は英国を長期的に資金調達の場として選んでくれるよう悲願され企画されたものでした。米国の平均株価が上昇していることは連日報道されていますが、ロンドン平均株価(FTSE100)も米国に見劣りするとはいえ順調で、崖っぷちの現政権はそれを必死にアピールしています。
金融規制は緩和の方向にあり、2017年に英国金融当局はサウジアラビアの石油ファンドを誘致すべくソブリン関連の規制を撤廃しましたが、結果として失敗。でもここで諦めるわけにはいきませんから、FCA(英国金融庁)は英国のテクノロジー企業が他国を資金調達の拠点にすることを阻止すべく規制を変更したり、政府は年金ファンドに英国株式の組み入れ率を増やすよう説得したりしています。生き残りをかけて、なりふり構わず必死です。
企業の立場からすれば、BREXITで小ぢんまりしてしまった英国より、アメリカで上場するほうが自由度も高く世界で注目され魅力的なのは言うまでもありません。実際に、テクノロジー関連は誰が何と言おうとアメリカ最強なわけで、ニューヨークで上場したほうが投資家の資金が集まり株価も高くなります。
先日、エネルギー企業のシェルが、英国では株式が過小評価されていると感じておりニューヨークで上場することを検討していることが発表されました。英国を代表する企業が次々と離れていきます。ロンドンはかつて欧州全体の株式資金調達を担う場でしたが、現在は欧州でもユーロネクスト(欧州証券取引所)を選ぶ企業が増えています。為替はまだかろうじて取引の場としての地位を保っているようです。
数年前から急成長中の中国のファストファッション企業SHEINは、ニューヨークではなくロンドンでの上場を検討している数少ない会社です。米国は人権問題に厳しいというのが理由の一つだそうです。ロンドンでの上場が上手くいくことを願うばかりです。