イギリスの顧客サービスのひどさには慣れていますが、最近本当に目に見えて悪化しているのを感じます。電車が来なかったり、お客様窓口に電話してもつながらなかったり、問い合わせをしても返事が来なかったりは日常茶飯事です。
先日フィナンシャルタイムズに、「なぜ顧客サービスがここまで悪くなったのか?」という記事がありました。イギリス人はアポイントメントをすっぽかされようが、デリバリーが来なかろうが、あまり文句を言いません。そもそも期待していないのだと思います。
ところが最近は銀行、エネルギー会社、オンライン配送会社、航空会社、自動車保険会社、小売業者、ブロードバンド・プロバイダー、税務署などに対する不満を抱える人が増えています。多くの人が、なにかしら緊急に解決しなければならない問題を抱えています。上記のどれかで非常に質の悪いサービスを受けた場合、カスタマーサービスに連絡をすることになりますが、AIによる自動チャットで的を得なかったり、電話の場合こちらのアクセントを認識できず、人と話したくてもその連絡先が分からないというケースが多発しています。こういったAIや自動音声の案内を用意しておけば、サービス提供者は言い逃れができると思っています。イギリスに住む人はみな、連絡が取れない会社と私的な戦いをしています。我が家も最近、ブロードバンド会社、電気会社、自動車保険会社、年金基金とやり取りを繰り返しました。
顧客サービス協会(ICS)によると、英国経済の全セクターで顧客満足度が9年ぶりの低水準に急落しているのだそうです。AIに取って代わったことだけが問題なのではなく、顧客サービス係の人を雇っても定着せずに辞めてしまうケースもあるのだとか。お客様窓口の担当者に怒りをぶつける顧客への応対はストレスフルだと思います。
顧客側の要求も高くなっているようです。生活費上昇にあえぐ人々はお金の使い道に厳しくなっていて、支払った金額への対価を以前より厳格に求めます。日本では当たり前ですけれど。
ICSの調査によると、一番サービスが悪いのはエネルギー会社だそうです。私たちのアパートの前テナントもエネルギー会社から1年で80万円相当の請求書が届き(隣のアパート分がまちがって加算された)1年以上戦っていますが埒が明かず、オンブズマンに訴えています。我が家も、義父の誰も住んでいないアパートの電気代を約10万円請求され(メーターが壊れていた)、1年近く戦ったのち夫は約8万円払うことにし、手を打ったそうです。これ以上は時間の無駄でストレスだからとのこと。ここ数年でエネルギー費が上昇したため、英国の500万人(!)以上がエネルギー料金を支払っておらず、その債務は総額26億ポンドです。ひどいサービスを提供しているのは、水道や鉄道など顧客に他の選択肢が無い公共企業に多いようです。税務局(HMRC)も例外ではなく、ヘルプラインに全く電話がつながらなかったり、問い合わせの返事が半年後という感じです。
ファイナンシャルタイムズの記事が指摘するのは、サービスの質低下も深刻ながら、それに対して苦情を言える方法が無くなってきていることです。つまり、人手不足で解決までに今までより時間がかかるのです。格安航空会社などはその最たる例で、我が家もキャンセルされたフライトの料金が返金されるまでとても大変でした。
顧客満足度が高い企業は業績が伸びて株価も上昇するので、企業側の努力にも期待したいところです。今後改善が期待できるとしたら、AIが経験を積み洗練されて、顧客によりよく対応できるようになること。また、同紙が提案するのは、いい顧客サービスが受けられたときは感謝の気持ちを表すことです。私もこれは効果があるのではないかと、「お客様は神様」という文化で育った身としては思うのです。