英国の総選挙は5年おきで、次は遅くとも2025年1月までに行われる見込みです。保守党が過半数を取れそうという確信があればそれよりも早く行われますが、地方補欠選で保守党候補が負けている現状、おそらくそういう事態にはならないと思われます。もし現在選挙が行われた場合、保守党は大敗するでしょう。
背水の陣の保守党は、何とか次の選挙までに巻き返しを図るべく迷走しています。先日の環境対策ポリシーの緩和(目標達成ターゲットの延長)も人気取りのためです。そして今週、何年も前から計画されて予算に組み入れられていた、高速鉄道の路線延長を取りやめることを発表しました。
英国は他の欧州諸国や先進国に比べて鉄道網の整備が遅れており、短い都市間を移動するのにも鉄道で何時間もかかることが指摘されていました。航空機より二酸化炭素排出量が少ない電車での移動を推奨すべく、さらにはインフラが先進国と思えないほど貧相という長年のコンプレックスを解消すべく、HS2と呼ばれるグレートブリテン島を縦断する鉄道網設置国家プロジェクトが発表されたのが2003年。ちなみにHS1はチャンネル海峡を渡るユーロスターの路線で、比較的順調に完成・開通しました。
HS2は2つのフェーズに分かれており、第1フェーズは北ロンドンのユーストン駅とバーミンガムを結ぶ線、第2フェーズ以降はそこからさらに北に延びてマンチェスターやリーズまで延長される計画でした。今月の保守党大会で、英国政府は第2フェーズ以降の計画をキャンセルすることを発表しました。第1フェーズは継続し、2029~2033年に完成する予定です。完成したあかつきには、ロンドンーバーミンガムが驚きの49分で移動できることになり、バーミンガムからロンドンへの通勤も理論上可能です(電車賃を考えると現実的ではないと思いますが)。
余談ですが、イギリスはこの手の計画が予定通り進むことはまれで、某南東イングランドの路線の整備は当初計画よりも何と16年遅れて完成したそうです。
取りやめた理由は、インフレにより人件費や建材費がかさみ、当初の予算の2倍の費用がかかる見込みだということ、地方の交通網整備により多くの資金を投じたいということです。この計画を見越して路線の近くに不動産を購入した人や駅の建設のために住居を立ち退いた人々は落胆しています。そもそも、ロンドンーバーミンガム間をそこまで短時間で移動する必要がある人がどの程度いるのか、史上最高の債務残高を抱え財政難にあえぐ英国で、その費用対効果に疑問を抱く保守党議員が多くいたと思われます。この計画を続けるには増税をせざるを得なくなる公算が大きく、ただでさえ不人気な与党は撤退を決めました。
環境対策にしろインフラ整備にしろ国が後退するのを見るのは残念ですが、国家予算の無駄遣いを批判されている保守党はアピールに必死です。とはいえ、2021年末に支持率が労働党に抜かれ、どうあがいても次回の選挙で過半数は難しいと思われるので、人気取りのためだけでなく、国の将来を長い目でみた決断をしてもらいたいものです。