3月24日に、財務相のハント氏がバジェット(経済政策)を発表しました。その一つに、50歳以上で引退した人にまた働いてもらうことを促す政策がありました。これは、イングランド銀行総裁が金利の上昇を50歳以上の経済的不活動が原因であると非難したことによるものです。コロナ禍で早期退職をする人が実際に増えました。ブレグジットの影響もありますが、慢性的な労働力不足により賃金が引き上げられ、物価は高止まりをしています。
具体的な政策としては、個人年金の上限が今まで£1.073M(約1億7,588万円)だったのが2023年4月から撤廃になり、拠出金上限が2023‐2024税年度以降年間40,000ポンドから60,000ポンドに引き上げられました。給与から年金基金に拠出すれば節税になります。
ところが、ハント氏の改革は、すでに引退した人々にはほとんど効果がなさそうです。早期退職した人たちの80%以上はリタイア後の生活を楽しんでおり、職場に戻るつもりはないようです。政府が63百万ポンドを使った今回の改革で職場復帰する人は、年配の医師(素晴らしい年金があるらしい)など、わずか15,000人と見込まれています。
公式データによると、経済的不活動の増加の背後にある主な要因は、「長期にわたる体調不良」に分類される人々の数であり、2020年夏の36,000人から昨年末には352,000人以上に増加しています。コロナウィルスももちろん大いに関係があると思われます。
この政策は早期退職が道徳的に間違っているという英国政府の概念が根底にあることを示していますが、可能であればしない理由もなく、早期退職こそが政府が提供できるインセンティブで最も強力なものであるという意見もあります。
年金受給開始年齢を62歳から64歳に引き上げたフランスでは暴動が起こりました。イギリスでは厚生年金を含む私的年金は受給開始年齢を55歳以降に自分で決められますが、デフォルトは65歳の設定になっています。今現役の世代が国民年金を受給できるのは67歳から。そのため、フランスに同情する声は聞こえません。
この国民年金受給開始年齢は2044年から68歳に引き上げられることが決まっていますが(1977年以降に生まれた人が対象)、現政権はこれを2035年に前倒ししようとしていました。ところが、背水の陣の保守党は、次の選挙が終わるまで審議を延期せざるを得ないようです。
一方、英国の平均寿命は短くなっています。最新の公式データ(2020年)では80.9歳で、G7で米国に次いで短命でした。
さらに、実際に50歳以上で仕事を探そうとすると、かなり難しいのが現実です。採用の際に、年齢差別はやはりあります。
英国は先進国で最も経済成長が遅い国であることに焦りを感じていて、何とか日本の二の舞にならないように手を打とうとしていますが、経済成長が見込めない英国を投資対象から外している投資家も多く、手遅れ感が強まっています。