今月首相になったトラス氏の政策は、本当に首をかしげるものばかりです。彼女が首相候補だった時、発言を聞いていて「あれ?この人、経済のことわかってないのかな」と危惧していましたが、想像より早く危機が訪れました。
先週の財務相による財務施政方針発表で、嫌な予感が確定となりました。イギリス政府の方針に嫌気した投資家が英ポンドを売り、ポンドはアメリカドルに対して史上最低値を更新、ほぼ1対1の価値に下落しました。
財務相が発表したのは経済成長を支えるためという名目の、過去50年で最大の減税政策です。国家の歳入が減る分は借金で穴埋めすると説明していますが、すでに財政悪化している英国。英国債は急落し、政府の借入れコストは過去10年で一番上昇した日となりました。
減税の内容は、①来年から基礎税率が現在の20%から19%になるのと、収入が15万ポンド以上の高額納税者向け税率の引下げ(45%だったのが、最高40%に) ②住宅購入税の控除額の大幅引上げ ③今年4月から引上げたばかりの、社会福祉税が元の水準に戻る、というもの。
さらに、金融機関に勤める人々のボーナス上限額の撤廃。イギリスで働くバンカーはボーナスが低いために他国に異動したがるそうで、それを引き留めようとしているようです。当然低所得者から不満が噴出していますが、現在の政権を握る保守党の支持者は富裕層が中心なので、政策は富裕層を優遇するものになります。どこの国も同じですね。結局、今回の政策変更で一番の恩恵にあずかるのは、収入が上位10%の人たちと言われています。
イギリス中央銀行は先週0.5%利上げしたばかりですが、緊急追加利上げの憶測が出てくるなど、事態の悪化は収拾する気配を見せません。1970年代の悪夢のスタグフレーションの再来がほぼ確定と言われています。
私は現状のイギリスの政策金利はインフレ率に対して低すぎると考えていますので、利上げ自体は賛成ですが、経済への打撃を考えると判断が難しいですね。