イギリスでは日本ほど高齢化社会が社会問題視されていません。イギリス人女性が生涯に生む子どもの数は平均2人を割っていますが、移民流入のため人口は増え続けています。ブレグジット後欧州大陸からの移民は減る一方、香港から十万人単位で移住してきています。
義理の叔母は生涯独身でした。10年ほど前に脳卒中のため半身まひになり、イギリスの中堅都市の老人ホームに入居しました。何度も訪問しましたが、それは素敵な施設でした。眺めがいい広い個室にはキッチンが付いていて(叔母は使えませんでしたけれど)、写真や生花が飾られていました。髪だけでなく爪も常にきれいにマニキュアが塗ってあって、お化粧も毎日してもらっていました。叔母は私たちの結婚式に車いすで参列しましたが、その際も老人ホームの職員2人が付ききりで車いす用の車と運転手を手配してくれました。とにかく、叔母が大事にケアされていることがよくわかり、安心できました。
そのホームの費用はどのくらいかかるか調べてみたところ、入居者の財政状態や必要とするケアによるそうですが、大体週400~500ポンド(週60,000~77,000円)でした。地方都市なので、安いのだと思います。叔母はずっと働いてきたおかげで資産がありました。
「ゆりかごから墓場まで」は第二次世界大戦後のイギリスにおける社会福祉政策のスローガンです。そんなイギリスで、老齢により生活が不自由になったらどうなるのでしょうか。
まず、配偶者がいれば配偶者ができるところまで世話をします。義両親の場合は義母が先に介護が必要になったので、義父が数年間食事など生活の補助をしていました。義母には週2回ケアラーが訪問して、お風呂に入れて髪を洗ってくれたりしました。最後の方は1日2回訪問してくれました。これは地方自治体によるもので、訪問ケアサービスだけでなく、車いすや傾きを変えられるベッドの貸与、手すり設置などの必要な改築も全て無料でした。
70代後半の義父は一人暮らしで、今のところ自分で買い物に行かれ、認知症にもなっていません。今後体が不自由になってきたら、まずは義母同様に地方自治体が派遣するケアラーに訪問してもらいます。その後は老人ホームに入ることになるでしょう。
日本と同様に、老人ホームには種類があります。別の叔母夫婦が入っているところは、夫婦で入れるサービスアパートのようなところで、常駐の管理人がいるだけで、それ以外は普通のアパート暮らしができます。Residential Care Homeというのは、部屋、食事、身の回りの世話、投薬のサービスがあります。Nursing Care Homeというのはケガをした人や病気の人向けで、専属の看護師がいて、医療行為が受けられます。Dementia Care Homeは、認知症の人向けのホームです。
老人ホームにかかる費用ですが、義父が住んでいる町の平均は、Residential Care Homeで週11万9千円相当、Nursing Care Homeで週15万6千円相当でした。他の町に比べて高いほうです。月々60万円相当なんて、貯金が全く無い義父のような人はどうするのでしょうか。
まず、なるべく長く在宅で無料の訪問ケアを受けます。それでどうしようもなくなったら、持ち家なら住んでいる家を売ってその資金で老人ホームに入ることになります。その資金を使い切ったら、政府が援助をしてくれます。
政府のウェブサイトには、「その人の貯金と不動産などの資産合計額が23,250ポンド(356万円)に満たない場合は、 家賃、身の回りの世話、介護サービスの費用は、地方自治体の財政援助を受給できるかもしれません。」とあります。
2021年度のイギリスの国民基礎年金は、35年満額税引前で週179.60ポンド(27,523円)です。義父は自営業だったので企業厚生年金が無く、国民基礎年金で生活をやりくりしようとしていますが到底足りず、夫が援助しています。
政府による社会保障が手厚いのは素晴らしいことですが、イギリス人は将来政府が何とかしてくれると期待して、老後資金を貯めようとしません。義妹も貯金ゼロだそうです。イギリス政府はコロナ対策で大盤振る舞いしたため、財政赤字は過去最高になっています。このツケを支払っていくのはこれから納税する世代。若者が希望を失っていると言われています。日本と同じ問題ですね。
ちなみに、実母が住む日本の地域の老人ホーム費用を調べたところ、平均で入居費593万円、入居費ありで月額20万円、入居費なしで月額30万円だそうです。私自身は35年後までなんとか自活を目指すことにして、その後イギリスと日本どちらの老人ホームに入ることになるのでしょうか。