日本では少子高齢化に歯止めがかからず国の衰退が嘆かれている状況ですが、他の先進国も同様の問題を抱えています。イギリスも少子高齢化と国による医療費負担の増加、国民年金基金が将来不足する懸念が報じられています。ただ、日本と違うところもあり興味深かったので改めて書きます。テレグラフ紙の記事を参考にしました。
日本のベビーブーム世代は今年75~77歳と50~53歳ですが、イギリスの場合は今年55~64歳になる人たちを指します。日本の国民年金の受給開始年齢は原則65歳で、繰上げと繰下げが可能ですね。イギリスの場合は国民年金受給開始年齢は現在66歳ですが、2028年から67歳に引き上げられることが決まっています。多くの人が、国民年金がもらえるようになるまで働き続けるようです。
つまり、英国では数百万人単位のベビーブーマー達の引退が2年後に迫っているのです。苦肉の策として年金受給年齢が引き上げられましたが、その効果は一時的なものでしかありません。受給年齢が1年引き上げられたといっても、2020年代初頭に比べて、2028年ごろには国民年金支給金額は230億ポンド(4兆4千億円)増加すると予想されています。
英国も日本と同じで出生率は低下しており、平均寿命は短くなっています。一般的に人々は大人になってからの人生の3分の1を退職後として暮らすのだそうで、平均寿命が短縮している現状、公的年金の受給開始年齢をさらに引き上げるのは難しくなっています。2023年の英国人男性の平均寿命は78.6歳、女性で82.6歳で、健康寿命に至ってはさらに短縮しています。
イギリスの財政問題に拍車をかけているのが、「働かない・働けない」問題です。仕事も求職もしていない人口は280万人で過去最高になっており、この人たちの生活も労働者が支えていかなくてはなりません。イギリス北部には平均寿命が70歳の町や、健康寿命が54歳の町もあります。その人たちが年金の恩恵にあずかるのはごく短期間です。
英国の根源的な問題は、生産年齢人口と納税人口の間に大きな乖離があるということです。経済的活動をしていない生産年齢人口の数は増加の一途で、現在は何と930万人に上り16歳~64歳の全人口の21.9%を占めます。
労働する人がパンデミック前の水準に戻っていないのは、同様の経済水準の国ではイギリスだけなのだそうです。仕事を病気を理由に休む・辞める人が欧州で一番多い国です。その人達の医療費を負担するのは国です。私の職場にも健康上の理由で無期限で休んでいる同僚がいて、その間給料は全額支払われています。私の勤務先は病欠日数に上限がなく、なんと最長5年ほど給料を全額もらえるそうです。太っ腹すぎます。働かなくて同じ給料をもらえるなら、働くのを止める人が続出するのは当たり前ですね。
イギリスの公的年金は、トリプルロックと呼ばれる制度により、物価上昇率と所得上昇率と2.5%の3つの数値のうち一番高いものに合わせて毎年支給額が引き上げられます。つまり、デフレでも景気後退でも最低2.5%はもらえる金額が増えるのです。
自分が働けない状況になった場合や年金を受給し始めたらありがたい制度だとは思いますが、一労働者としてその人たちを支える負担は相当なものです。ただ、今のところ保守党も労働党もこのトリプルロック年金制度を支持しており、この政策はしばらく続きそうです。