先週から株式そのあらゆる市場が大混乱になっていますが、英国人が実生活でどんな影響を受けるのかの分析がi(新聞)に載っていました。年金、社会保障、税金、雇用、貯蓄、物価についての考察です。トランプ大統領の関税政策は一部脅し的なもので、実際には緩和するだろうという見方もありましたが、どうやら本気みたいです。一番のターゲットになっている中国も全面的に報復する意向を表明しました。イギリスはなるべく相手を怒らせないように、なだめて擦り寄る方針のようです。翳りが見えてきていた英国経済にクリティカルヒットになりそうです。
一番影響が大きいのは年金基金ですね。全世界の株式相場が下落していますので、年金基金自体の価値が大幅に縮小しています。引退したばかりの人、しようとしていた人は使えるはずだった資金が数週間前から何割も減ってしまったので計画変更を余儀なくされます。待てる人は回復するまで待つのが得策ですね。定年退職する世代の大きな出費は家の改築、車の買い替え、孫の大学の学費などですが、減らさざるを得ないケースも出てくるでしょう。
次はISAです。リーブス英財務相はキャッシュISA(非課税)の年間上限額を現在の20,000ポンドから4,000ポンドに減額しようとしていたところです。ところが、初心者が株式ISAを始めるには相場が不安定すぎるので、過剰なリスクを国民に負わせないためにこの計画の再考が促されています。
イギリス企業への影響も当然あります。10%の関税は欧州の20%や日本の24%に比べると低いとはいえ、米国で売られる英国製品が10%割高になれば売上は当然減少し利益率も下落します。また、自動車業界は25%の関税が課されることになります。英国にとって米国は欧州に次ぐ重要な市場で、ジャガー・ランドローバー社は報じられているように米国への輸出を停止しました。すでに瀕死状態だったイギリスの製鉄やアルミ業界も25%の関税でとどめを刺されそうです。

雇用への影響はどうでしょうか。タイミング悪く政府が社会保障費の企業負担を増やしたばかりです。ドイツ銀行の試算によると、関税の影響で失業する人は5~10万人だそうです。
アメリカ向け輸出品の行き場を失った他国からの製品が英国に安く輸入されれば、多少インフレ緩和に寄与するかもしれません。でも値引き競争になると英国企業の収益率も下がり、雇用が失われる可能性もあります。
英国政府の歳出削減はほぼ確実です。もう景気刺激策として打つ手がほとんど無くなっているリーブス財務相は、さらに政府支出を減らす必要に迫られます。そこで増税の可能性ですが、労働党には勤労者への増税はしないという公約があるので、難しいでしょう。唯一の方法としては、2028年まで延長された所得税率基準額の凍結のさらなる延長です。富裕層が大量流出してしまったため、富裕層への増税を強化することは避けたい模様。
物価はどうなるか意見が分かれるところです。関税以上に為替(ポンド安ドル高)の影響が大きいと思われます。英国では今月から住民税や光熱費が上昇しているため、すでにギリギリの生活をしている家庭が多いです。アメリカから英国への輸入品に報復関税をかけるかどうかはまだ正式に決まっていません。
景気が悪化し英国中央銀行が利下げをすれば住宅ローンの支払いが多少減少するので、家計への負担が和らぐ可能性があります。今のところ、不確実要素が多すぎて先を予想するのは困難ですね。