先週、カナダの新首相にマーク・カーニー氏が選出されました。
カナダはアメリカの第51番目の州にされまいと、国が一致団結しているように見えます。強力なリーダーシップを発揮できる人材が熱望されていました。
カーニー首相は、イギリスにはとてもなじみが深い人なのです。カナダ人でありながら、イギリス中央銀行の総裁でした。日本人の感覚からすると、外国人が日銀総裁になるとか考えすら及ばないと思いますが、イギリスの懐の深さよ、というかイギリス人に適任者が見つからなかったからですけど。
カーニー新首相はどのような人か見ていきましょう。彼の専門分野は危機管理経済学および計量経済学で、まさしく今求められているものといえるでしょう。まぁ言ってみれば数学寄りの経済学オタクということです。経歴は絵にかいたように完璧なもので、ハーバード大学で学士号、オックスフォード大学で修士号と博士号を取得し、卒業後はゴールドマンサックスで働いたそうです。その後、カナダ中央銀行に転職し総裁まで上り詰め、リーマンショック時の対応にあたりました。2013年からはイギリス中央銀行の総裁となり、ブレグジットやパンデミック初期の経済的混乱に対処しました。つまりは経済危機対策のプロです。フランス語も母国語レベルで話します。60歳、経験は豊富ですが、政治家として年を取りすぎておらず、期待の星です。
カナダでは反アメリカ感情が高まっており、カーニーはそれを錦の御旗として掲げて支持を広げたようです。
私はカナダの政治には詳しくありませんが、彼が率いる自由党は、2025年初の支持率はわずか16%で、保守党の45%に大きく水をあけていたそうです。当然、保守党の地滑り的勝利が予想されていました。ところが、8週間前にカーニー氏が自由党党首に選出されるとあっという間に支持を得て何と選挙に勝ってしまったのです。カナダ国民は誰がトランプと対決できるかで選んだようです。保守党の党首は親アメリカ的でした。
興味深かったのは、ケベック州では独立派の指示を取り戻したことです。ここはカナダとして団結すべき、と結束を強めています。
カーニー首相は米国との交渉で、カナダがいかに米国にとって重要な国であるかを主張します。特に、トランプ大統領がのどから手が出るほど欲している希少鉱物をカードとしてちらつかせるようです。
首相の一番の関心事はカナダ経済の発展です。そのためにはカナダにとってベストな戦略的提携を米国以外の国や地域と探っていくはずです。少なくとも英国との貿易協定は早期に決まるでしょう。というのは、先日数十年ぶりに、カナダ議会の開会をチャールズ国王が行ったのです。アメリカではなくイギリス寄りの姿勢を見せたことになります。
アメリカの身勝手さにあきれた国同士で国際関係がマルチラテラルに複雑化するなか、カーニー首相の手腕に期待するのはカナダ国民だけではなさそうです。
